Jan 23, 2010

2009年度 第3回ワークショップ「社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)をつくる」終了!

i.school第3回人間中心イノベーション・ワークショップは、「社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)をつくる」と題し、4つのチームに分かれて、5日間の日程で行われました。前半の3日間は、i.schoolのエグゼクティブ・ディレクターでもある堀井秀之東京大学教授が、既存のソーシャル・エンタープライズの分析などを通してソーシャル・エンタープライズのメカニズムを解明。後半の2日間は、ビジネスブレークスルー大学院大学教授であり、自らもラーンネット・グローバルスクールを起業、代表を務める炭谷俊樹氏が、事業化に向けての実践的な指導を行いました。

イノベーションを「画期的なアイデアの発案」プラス「そのアイデアの実現」とする前提に立てば、前半をアイデア創出の演習、後半を実現のためのシミュレーションと言うことも出来るでしょう。

日程:
2009年11月21日(土)11月28日(土)、
12月5日(土)、12月12日(土)、12月19日(土)

ファシリテーター:
堀井秀之氏(東京大学大学院工学系研究科副研究科長、社会基盤工学専攻教授、i.schoolエグゼクティブ・ディレクター)、炭谷俊樹氏(ラーンネット・グローバルスクール代表、ビジネスブレークスルー大学院大学教授)

協力:
千葉大学グローバルアジア・デザインスクール・プログラム

社会人参加(協力企業):
味の素(株)、ソニー(株)

<1日目>既存のソーシャル・エンタープライズを分析
ワークショップの前半(1日目?3日目)は堀井教授より、既存のソーシャル・エンタープライズの分析から、新たなソーシャル・エンタープライズの設計までを指導していただきました。

参加学生は、事前に社会的課題100選(生活習慣病、ネットいじめ、開かずの踏切などなど)と既存のソーシャル・エンタープライズ・ケース集に目を通しています。このケース集にはグラミン銀行、Zip Car、People Treeなど一般に認知度の高いものも含まれ、それぞれの事業の前提となる社会問題と事業の概要、また問題解決のメカニズムについて記載されています。

まず「アラビンド・アイ・ホスピタル」というインドのソーシャル・エンタープライズを取り上げ、“診断カルテ”を用いて問題特性と解決メカニズムを分析。次にチームごとに1件ずつソーシャル・エンタープライズを選んで、分析を試みました。

このワークショップではアイデア創出のための様々な方法論も試されました。堀井教授考案のオリジナルアイデア記入付箋紙、アイデアが生まれた瞬間に鳴らすハンドベル(チームごとに音階が違う!)などです。さて、ドレミファの音色が今後どれだけ会場に響くことになるでしょうか。

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<2日目>ソーシャル・エンタープライズの分析(続き)と事業計画の第一歩
参加学生には、既存のソーシャル・エンタープライズを選び、診断カルテを用いて分析する宿題が課されていました。診断カルテは「問題の原因」「解決の原動力」「解決の手段」の大項目から成り、事業の特性を解明するツールです。また、各自の分析結果をチームごとに共有・統合し、クラスター分析を用いたソーシャル・エンタープライズ群の分類を行っていました。

そして、この日はいよいよ事業領域の検討段階に入ります。チームごとに協議し、それぞれ社会的課題と、解決戦略案を決定。既存のソーシャル・エンタープライズ分析を参考にしながら、戦略案、調査計画立案をスタートします。“社長”を選出、“社名”も検討していよいよリアリティを増して行きます。

ちなみにこの時点でAチームはティーンエイジャーの性意識に活路を見出し、Bチームは受動喫煙と分煙に注目。Cチームは高齢者虐待を課題に据え、Dチームは学力格差と貧富の差の相関関係を何とかしたい、とのことでした。この荒削りな起業家精神が今後切磋琢磨されていくことになりますが、それに先立つ来週までのTO DOリストは満載です。

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<3日目>事業計画づくり
本日は16時にスタートする中間報告に備え、朝からひたすら事業アイデアを練り上げます。まずはこの1週間の間に各自が行った情報収集やインタビューをチームメンバーで共有。そして、発表のための事業計画作成に入ります。

中間報告にはコメンテーターとして、後半のファシリテーター・炭谷俊樹氏、HAKUHODO DESIGN社長で社会的企業にも詳しい永井一史氏が参加し、鋭いツッコミとともに暖かいエールをくださいました。

Aチームは「Saving Million Teenagers」という社名の下、親、医者、10代男女の三角関係の中からティーンエイジャーを不本意な妊娠や性感染症から救うシステム創出を考えます。

Bチームは社名を「あ、Delight」として、禁煙ファシズムと受動喫煙問題からノンスモーカー、スモーカーの双方を救うべく立ち上がり、街頭の電話ボックスの再利用に着目。

Cチームのタイトルは「Open the Care Room」。老人介護問題に立ち位置を定め、学校、旅館、店舗など既存のファシリティーの利用を考えます。

Dチームが目指すのは「教育格差の世代間伝承の解消」。社名を「モチベーションメーカー」として、教育格差を生む環境と、対象の絞り込みに苦労を重ねます。

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<4日目>仮説検証
炭谷氏の指導に代わり、各チームが提案したソーシャル・エンタープライズモデルは本当に成り立つものなのか、関係者に受け入れられるだろうか、を徹底的に検証する一日。中間報告で明らかになった問題点を中心に、チームごとに議論を重ねます。

検証のポイントは、人、競合、技術・仕組み、財政。

また、検証のために必要な追加の情報収集やインタビューの計画を立てました。調査や取材の対象は想定される受益者やステークホルダーだけではなく、関連する事業の経営者や想定される技術や仕組みに詳しい人なども含まれます。

生まれたての事業計画は、厳しい現実の荒波の洗礼を受けて、かなり大きくたじろぎます。しかし、ソーシャル・エンタープライズで最も大切な要素は「意志の力」とも聞きます。難産だけど、がんばって!

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<5日目>最終プレゼン
これまでのフィードバックやさらなる調査結果を通して、ソーシャル・エンタープライズの実現性を高める作業を行います。そして、事業計画を作成し、仮想出資者(?)へのプレゼンを行います!

「Open the Care Room」社は「介護を明るく、楽しく」をタグラインに謳う介護のシェア事業。初日とは比較にならないほど仕組みも洗練され充実して来ました。収支計画の現実性があと一歩でしょうか。

「Saving Million Teenagers」社の、コンドームを高級ラインとバラ売りの2ライン化するアイデアに会場は沸きました。コンドームのガチャポンなんてどう?というアイデアも。コンビニ攻略のハードルは高そうですが…。

「あ、Delight」社は、法規制の問題で電話ボックス案はすでにボツとしていましたが、それに替わるアイデアグッズもあり、オンライン、リアルのクロスでなんとか解決の糸口を掴もうとしています。スモーカーの男子向け「タバコを吸わない女の子とデートするアプリ」案は秀逸!

「モチベーションメーカー」、通称MM社は事業を「休日学校」(仮)と名付け、大いに議論を繰り返した結果、受益者を「小学校高学年の子どもを持つひとり親家庭」と設定しました。現実にひとり親家庭で育ったメンバーの実体験をはじめ、メンバーそれぞれが自身の子ども時代の記憶を事業に生かして設計したため、説得力のある内容となりました。

コメンテーターとして参加した、堀井教授、炭谷氏の両ファシリテーター、ソーシャル・デザインの第一人者である博報堂生活総合研究所の筧裕介氏、自らも国際NGO団体を立ち上げ、ソーシャル・エンタープライズの支援に携わる三菱総合研究所の土谷和之氏からは、事業計画の評価とともに、起業に向けた実践的なアドバイスも数多く贈られました。

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後日談:
ワークショップは起業のシミュレーションで終了となりましたが、ここで終わるわけには行かない参加者達が、さらに事業計画をブラッシュアップし、起業に向けた取組みを続けています。ここから新たなソーシャル・エンタープライズが生まれて行くことをi.schoolの関係者一同、楽しみにしています。

<以下はワークショップに参加した学生のコメントの一部です。>

「本当に或る社会問題を解決したい」という思いを持った人に触れ、非常に感化されました。とことん考えることの大切さ以上に、「自分の熱意」の重要性に改めて気付きました。(工学系研究科)

ワークショップ中、東京大学の方・博報堂の方を中心に様々な社会人のワークショップへの関わりがあった。その中で、今までは知らなかった生き方の手本を多数みることができて、進路選択の材料になったと考える。(農学生命科学研究科)

グループワークでイノベーションを起こす「コツ」みたいなものが少し見えてきた気がします。まだ形式知化は出来ませんが、行動や話し方、コミュニケーションのタイミングとか、なんとなく「コツ」が見えたような。少なくとも、私の体にはある程度定着しつつあり、再現可能な気はしています。(工学系研究科)

到達できなかった目標は、誰が見ても実現可能なビジネスプランを作れなかったことです。まだまだ検討するべき課題があります。(教育学部総合教育科学科)

一週間という期間の間に普段の予定をこなしながら、インタビューなどの時間の都合をつけることが大変でした。インタビューに伺っても断られてしまったり、日を改めてということもあったので思うように情報が集めることができなかったこともありました。(千葉大)

事業計画ということで、特にコストや収益の面について、まったく経験も知識もなく、組み立てるのが難しかったですが、良い経験になりました。(教育学部総合教育科学科)

社会問題に直面しているひと(しわ寄せを受けている人)に対してのインタビューが難しかった。また、老老介護している人を紹介されても、本音を聞き出すまでに時間がかかりそうだった。

改めて、人間社会が多様で複雑なものであることに気づき、今後もこの複雑な人間社会を楽しみ、ポジティブな影響力を与えていきたいと思った。

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このワークショップに参加したイノタン隊員によるレポートがこちらからご覧いただけます。
http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp/innovation/?p=98
http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp/innovation/?p=99
http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp/innovation/?p=105

告知ページはこちらからご覧ください。
http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp/programs/workshop/workshop_nov09

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